曲の原典をたどる
「埴生の宿」を自分でも弾いてみたい。ピアノの思い出から、原典のメロディーへ
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「埴生の宿」は、以前、後輩がピアノで弾いてくれたことのある曲です。そういえば、自分では弾いたことがないかもしれません。今回は楽譜を開いて、そのメロディーを一音ずつ確かめてみようと思います。
映画の曲として覚えていた「埴生の宿」
「埴生の宿(はにゅうのやど)」には、映画『火垂るの墓』で使われていた曲、という記憶もあります。そこに、後輩がピアノで弾いてくれた思い出が重なっています。聴く機会はあっても、自分の手で音を探したかどうかは、また別の話でした。
いきなり両手のピアノ譜に挑戦する前に、まずはメロディーだけをたどります。聴いて、短く歌って、鍵盤で確かめる。伴奏がなくても、最初の二音からなら取りかかれそうです。
原曲は「Home, Sweet Home」。舞台から伝わった歌
原曲の題名は「Home, Sweet Home」。イギリスの作曲家ヘンリー・ローリー・ビショップによる曲です。ロチェスター大学のシブリー音楽図書館の資料は、ジョン・ハワード・ペインの言葉とともに、1823年のオペラ『Clari』で使われたことを紹介しています。
日本では里見義の日本語詞で親しまれてきました。映画で耳にした曲の来歴をたどると、ずっと前の舞台作品や日本の唱歌集につながります。
今回開くのは、1889年12月に東京音楽学校から刊行された『中等唱歌集』。国立国会図書館の所蔵本には、第十五の曲として「埴生の宿」が載っています。映画の録音や後輩が弾いた編曲とは区別して、この古い掲載譜の旋律を練習の出発点にします。
二声の楽譜から、上のメロディーをたどる
掲載譜は変ホ長調、4/4拍子です。調号にはシ・ミ・ラの三つの♭が付き、短い一拍の入りから始まります。速度の言葉はModerato、ほどよい速さという指定で、メトロノームの数値はありません。
高音部の譜表には上下二つの声部が書かれています。この練習画面は上の旋律だけを取り出したものです。歌詞や伴奏を加えず、音高・音の長さ・休符・音をつなぐスラーを独自にデータ化しました。原典画像は転載していません。
原典の六段を、最初の一段、次の一段、中ほどの二段、終盤の二段という四つの練習フレーズに分けています。まずは第1フレーズだけで十分です。
『中等唱歌集』の掲載譜を見る最初の「リ→ソ」を聴いて、歌って、弾く
ここからの音名は、練習画面と同じ西塚式音名で表します。ミ♭は「リ」、ラ♭は「サ」、シ♭は「チ」です。
掲載譜の冒頭を西塚式の固定ドで読むと、リ・ソ・サ・サ・チです。初めのリからソまでは長3度、半音四つ分の距離があります。最初はこの二音だけを聴いてみます。
最初の一拍と、その次の小節
リ | ソ・サ・サ・チ
リは1拍。小節線のあとは1拍半・半拍・1拍半・半拍です。四分音符を1拍として数えます。
- 練習画面の最初の二つの音符を押し、リとソを一音ずつ聴く。
- 音を止め、「ラ」など一つの言葉で二音を歌う。もう一度聴いて高さを比べる。
- 手元にピアノやキーボードがあれば、同じ二音を弾く。つながったら、その先のサ・サ・チも加える。
黒鍵が多くて追いにくいときは、練習画面をハ長調に変えて構いません。その場合の冒頭はド・ミ・ファ・ファ・ソです。音名は変わりますが、初めの二音が長3度上がる関係は同じです。
ここでの音名は、調に合わせて主音をドと呼ぶ移動ドではなく、鍵盤の位置に対応する西塚式の固定ドです。画面で選んだ調の音名を見ながら確かめてください。声で試すときは、男声・女声や調を選び直し、無理なく出せる高さを使います。
似たフレーズの、終わり方を聴き比べる
第1・第2フレーズは、どちらもリから始まります。よく似ていますが、最後に落ち着く音は同じではありません。第1フレーズはソ、第2フレーズはリで終わります。
途中の「ソ」も、楽譜と聴き比べてみる
第1フレーズで、チを2拍伸ばしたあとの二音にも注目してください。今回の底本では「チ・ソ・ソ」と続きます。別の楽譜で最後の音がチへ上がる「チ・ソ・チ」になっていても、この練習版では1889年『中等唱歌集』の上声に合わせ、ソを繰り返しています。
聴き覚えのある旋律や手元の楽譜と違う音があったら、すぐに間違いと決めず、使っている版を比べてみましょう。第2フレーズの対応する箇所は、この底本でも「チ・ソ・チ」です。二つのフレーズを聴き比べる目印にもなります。
各フレーズの末尾にある、2拍伸ばす音だけを先に聴いてみてください。そのあと少し手前から再生すると、どこへ向かっているのかを比べられます。「同じように始まったから同じように終わる」と思い込まず、終わりの一音を目印にします。
途中には、長い音と短い音を組み合わせた付点リズムが出てきます。高さと長さを一度に追いにくければ、テンポを下げ、まず二音の高さ、次に長短の順で確かめましょう。スラーの曲線でつながっていても、違う高さの音は一音ずつ鳴ります。
高い音へ上がるところと、長く伸ばすところ
第3フレーズはチから高いリへ上がります。ここは完全4度、半音五つ分。冒頭のリ→ソの長3度とは、跳ぶ幅が違います。まずチと高いリの二音だけを聴き、次のレ・ド・チと下がる動きを加えてください。
第4フレーズは、チを3拍伸ばし、1拍休むところから始まります。それまでの短い入りとは違い、長さを落ち着いて数える場所です。次のサ・ファは、それぞれ2拍。伸ばした音から次の音へ移る瞬間を確かめます。
第3・第4フレーズは原典の二段ずつをまとめているため、最初の二つより長めです。一度に追うのが難しければ、音符を押して気になる場所から再生してください。伸ばす音の後の休みも含めて、最後までたどります。
「埴生の宿」を一音ずつ確かめる
初期設定は変ホ長調・テンポ80。80は練習用の値です。男声ではリ3〜リ4、女声ではリ4〜リ5の範囲を使います。ハ長調・ニ長調・変ホ長調・ヘ長調から選べます。
停止中は音符を押して一音を確認でき、連続再生中は押した音から先へ移れます。まず二音、次に第1フレーズという順に試してみてください。
「埴生の宿」で練習する旋律のみのMusicXML・MIDIも用意しました。変ホ長調・表示譜の高さ・テンポ80で、画面の設定変更はダウンロードには反映しません。両手のピアノ編曲譜ではなく、メロディーを確かめるためのデータです。
誰かの演奏の思い出から、自分の練習へ
参照資料と旋律の扱い
- 国立国会図書館:『中等唱歌集』第21コマ。深沢登代吉編、東京音楽学校、1889年12月。第十五「埴生の宿」、34–35頁。2026年9月13日に上声を目視採譜。
- シブリー音楽図書館:「Home, Sweet Home」コレクション解説(PDF)。3頁のビショップと1823年『Clari』の説明。
- 小学館『日本大百科全書』「埴生の宿」(コトバンク掲載)。日本語詞と『中等唱歌集』への掲載。
- リットーミュージックの楽譜カタログ(PDF)。『火垂るの墓』と「埴生の宿」の対応を確認。
底本の公開表示はPDMです。古い掲載譜の上声を独自に浄書し、既存の許諾済みピアノ単音で再生しています。原典の下声・伴奏・強弱の変化、歌詞の各番の反復は省略しています。映画の映像・録音、現代の編曲譜は使用していません。