ふたり音

曲の原典をたどる

「仰げば尊し」を音名で歌える?覚えている旋律を原典で確かめる

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歌詞と一緒なら思い出せる「仰げば尊し」。その旋律を、音名でも辿れるでしょうか。今回は古い教科書の楽譜を使い、覚えている音と、実際に印刷されている音を短いまとまりで比べます。卒業の季節に限らず、知っている歌を一音ずつ聴き直す練習です。

今回読むのは『小学唱歌集 第三編』の楽譜

底本は、広島大学図書館が公開する文部省音楽取調掛編纂『小学唱歌集 第三編』です。ビューア画像9の右側に第53曲の旋律譜、左側に「あふげば尊し」の歌詞が載っています。柱には「五」とあり、通常のページ番号とは別の数え方なので、画像9を目印に探してください。

図書館の書誌では出版年は1885年とされています。一方、櫻井雅人による研究報告では、この曲の初出は1884年の『小学唱歌集 第三編』とされています。ここでは、書誌に記された所蔵本の年と、曲が初めて掲載された年を分けて扱います。国立国会図書館所蔵本のコマ10でも、同じ曲の音符を照合しました。

広島大学の資料はパブリックドメインとして公開されています。このページと練習画面では、原典画像を転載せず、音符を読み取って新しく譜面と再生データを作っています。

広島大学図書館の底本を見る

原曲について分かっていること

原曲を調査した櫻井雅人の報告によると、旋律は米国の歌集『The Song Echo』(1871年)141頁の「Song for the Close of School」に見つかりました。作曲者の表記は H. N. D. で、同報告の時点では本名や経歴は分かっていません。作者を推測で補わず、練習用の底本は日本の『小学唱歌集』に置きます。

歴史を知ったあとには、ぜひ自分の覚えている歌へ戻ってみてください。出典を辿ることと、次の一音を思い浮かべて歌うことを、この曲でつなげてみます。

櫻井雅人「『仰げば尊し』とその原曲」の研究発表要旨を読む

6/8拍子は、三つずつの大きな二拍で捉える

底本の調号はシャープ四つで、ホ長調です。拍子は6/8。八分音符六つ分を一小節に収め、三つずつを一まとまりにすると「一・二・三、四・五・六」という大きな二拍を感じられます。

最初の音は八分音符一つだけで、小節が満たされる前に始まる弱起です。最初の音を大きな一拍目だと決めつけず、次の音へ向かう短い出だしとして聴いてみてください。練習画面では各フレーズの弱起を、そのフレーズに含めています。

音の高さを確かめる段階では一音ずつで構いません。そのあとで三つずつのまとまりを感じながら、長い音と短い音をつなぎます。自動再生の初期テンポ72は四分音符を単位にした練習用の値で、6/8拍子の付点四分音符では48に相当します。底本にこの数値の速度指定があるわけではありません。

冒頭のサ・サ・ラ・シを確かめる

底本のホ長調を西塚式音名で読むと、弱起はサ。続いてサ・ラ・シ・シと進みます。音の高さに固定した呼び名を使うので、ホ長調の主音ミは「ミ」のままです。

弱起から第2小節まで

サ | サ・ラ・シ・シ | デ・デ・シ・サ

一般的な固定ド表記:ソ♯ | ソ♯・ラ・シ・シ | ド♯・ド♯・シ・ソ♯

縦線は小節の区切りです。最初のサは八分音符、第1・2小節はそれぞれ四分・八分・四分・八分音符です。

まず二つのサを聴き、同じ高さで入り直します。次にサからラへ上がる半音と、ラからシへ上がる全音を別々に聴いて歌います。同じ「隣の音へ上がる」動きでも、鍵盤上の距離は違います。続くシを伸ばしたあと、同じシへ戻れるかも確かめてみましょう。

音名がすぐに出ないときは、母音など歌いやすい声で高さだけを確認してから音名を添えてください。歌いやすい調へ変更した場合は音名も変わるので、画面の表示を手がかりにします。

似た始まりでも、終わり方が変わる

第1フレーズと第2フレーズは、同じサの弱起から始まり、その後の二小節も同じ音の並びです。違いが現れるのは、第3小節と、それに対応する第7小節です。

底本のホ長調を西塚式音名で比較
箇所音の並び
第3小節

フィ・サ・ラ・デ

一般的な固定ド表記:ファ♯・ソ♯・ラ・ド♯

第7小節

フィ・デ・シ・リ

一般的な固定ド表記:ファ♯・ド♯・シ・レ♯

第7小節ではフィから上のデへ跳び、最後は低いリへ下がります。続くミへの半音の上行まで、短く取り出して聴いてみてください。冒頭が似ているからといって最後まで同じ動きだと捉えず、音が離れる箇所と、次の近い音へ戻る箇所を分ける練習です。

タイとフェルマータを分けて読む

第4・8・12小節と最終小節には、同じ高さの音符を弧でつなぐタイがあります。ここは音符が二つあっても、続けて歌うときは一つの音として伸ばします。練習画面でも連続再生ではタイの後半を打ち直しません。停止中は後半の音符を押して、一音として高さを確認できます。

第14小節のデにある半円と点はフェルマータです。譜面の音価より長く保つ記号ですが、何秒伸ばすかまで固定されてはいません。表示譜には記号を残し、自動再生とMIDIでは比較しやすい一定テンポで進めます。自分で歌うときにゆったり伸ばす表現とは区別してください。

第15小節のサからフィへの弧は、音高が異なる二音をつなぐスラーです。同じ音を伸ばすタイとは違い、二つの高さをなめらかにつなぎます。長さばかりを追わず、サからフィへ下がっているかも聴き直してみましょう。

四つのフレーズで試す練習手順

  1. 覚えている旋律を、楽に出せる高さで短く口ずさむ。
  2. 第1フレーズで、同じ音からの入り直しとサ・ラ・シの上行を確かめる。
  3. 第2フレーズの後半を聴き、第1フレーズとの終わり方の違いを比べる。
  4. 第3フレーズではデ・ミ・リ・デへ動く第11小節を、一音ずつ確認してつなぐ。
  5. 第4フレーズではタイとスラーを区別し、最後のミまで辿る。

各フレーズは、短い出だしから次のフレーズの直前までです。第一音の弱起は小節番号に数えず、以後を第1〜16小節としています。苦手な箇所は全曲を最初から繰り返す前に、その前後の二音へ戻ってみてください。

「仰げば尊し」を聴いて練習する

男声の初期設定はリ3〜ミ4、女声はリ4〜ミ5です(リは一般的な固定ドのレ♯、数字はオクターブを表します)。声域・調・テンポを無理のない設定へ変え、一音クリックからフレーズ再生へ進められます。連続再生中に音符を押すと、その位置から聴き直せます。

「仰げば尊し」で練習する

歌詞・伴奏を含まない旋律のMusicXMLとMIDIもダウンロードできます。

ほかの曲でも、二音へ戻ってみる

短い曲から同じ方法を試したい方は、唱歌「月」の二音とリズムの練習へ。曲の中から確認する箇所を探す考え方は、好きな曲を二音ずつ練習する方法でも紹介しています。

参照資料